澄姫です。
今回から清姫研究のカテゴリは本題へと入っていきます。
まだまだ入り口に過ぎない話が続きますが、それでも踏み込んでは居るのです。前回お話した清姫伝説の分類・区分が極力削ってあれぐらいの長さ、となると四方山話もして居られないので早速本題。
物語の構成についての話
今回は清姫伝説の構成についての話です。
先んじて構成とは何ぞや、という部分から。
ここでの構成は、清姫伝説の物語、即ちストーリーの構成を指します。噛み砕いて言えば清姫伝説の物語はどのような要素で成り立っているか、という事。おおよそ、起承転結と考えて頂いて良いでしょう。
物語である以上、物語の骨組みとなる要素は存在します。ですので、分解していけば物語を構成している要素に辿り着けますね。
しかしながら、「清姫伝説は清姫伝説なのだから筋は変わらないのでは?」という疑問も出てくるでしょう。
例えば日高川草紙。全く知らない人が読めば「似ている」という程度の認識で、清姫伝説が下地になっているとは分からないかもしれません。即ち、「似ている程度の物語」と「明確に同じ伝説を基にした物語」の区別を認識したり指摘するのに役立ったりします。
CHECK【御伽草紙】『日高川草紙』について
逆に、まったく似ていない物語であっても構成や要素的に見ると似通っていて、同じ事を述べようとしていたり同じ影響を受けて物語が成立しているのではないか、と考えられるのです。(有名なのは『竹取物語』と『奈具社』についての議論だと思うので興味ある人は読んでみてね。角川ソフィアの竹取物語がオススメ)
同時に、「物語の変化」「物語の差異」が見て取れる場合があります。
「明らかに同じ伝説を基にしていて、登場人物も同じなのに構成で見たら欠いている部分があるぞ」と見出す突破口にも成ったり、論を展開するに色々と都合が良いのです。
建物をイメージして頂ければ分かり易いかもしれません。
同じ部品を同じ様に組み合わせているから、多少レリーフが違くとも同じ作品が元。
同じ作品で、同じ様に見えるけど所々部品が違う、等々。
して、その構成をしている要素の話をするにしても細かくしようと思えば幾らでも細かくできるわけで。文章で言えば文・段落・句・単語・文字と分解できてしまいますからね。
※要素という単語には「これ以上は分析できない物」という意味も有りますがここでは「基本的条件・内容」としての意で使っています。
清姫伝説の構成の話。
んでえーと、清姫伝説の物語の構成についてですね。
構成や要素そのものの話が長くなりました。四方山話を削っても元の木阿弥。
細かい話は細かい部分だけで一つの記事が終わってしまうくらいになるので、今回は大まかに行きます。
さて、清姫伝説は大きく前後半二つに分ける事が出来、さらに前半は四つに分ける事が出来ると言えます。ざっといえば起承転結です。
清姫伝説の構成は以下の通り。
前半→物語の始まりから清姫が安珍を焼き殺す迄
・安珍と清姫の出会い(再会)
・安珍に清姫が恋慕する
・安珍が清姫の元から逃走する
・安珍清姫の両名が死亡する(役割の消失)
後半→道成寺の高僧による安珍清姫の供養
清姫伝説の物語を思い返していただければ、この要素で成り立っていると御理解頂けると思います。
清姫伝説の歴史は長いので大変多くの作品が残っていますが、以上の前半部四つと後半部は基本的に変化がありません。『法華験記』から『道成寺縁起』を経て、現在に至るまで以上の要素を物語に備えています。
CHECK【原典】『法華験記』について
CHECK【転身絵巻】『道成寺縁起』について
しかしながら、上で例に挙げた『日高川草紙』に実は物語の後半部分、つまり安珍清姫(若しくはその役割を持つ人物)の供養は描かれていません。
お姫様が僧侶を川に引きずり込んでちゃんちゃん、です。
なれば清姫伝説ではないのか、というのではなく、『日高川草紙』は「物語の後半部分を欠如した清姫伝説」と言えます。
寧ろ今認識され得るメジャーな清姫伝説は後半部分を欠いている事が多いですね。これはつまり、清姫伝説自体、若しくは清姫伝説の物語の構成が歴史の中で変遷、大きく変化していることを指摘できる、という訳です。
清姫伝説の構成要素が持つ性質についての話
では前半後半がそれぞれ持つ性質について。
前半部分は分かり易く四つに分かれているので起承転結と捉えられますね。
更に簡単に言えば男と女が出会って恋をして男が逃げて女が追って果てには殺してしまった、という悲恋物語。即ち、前半部分の持つ性質は【恋愛譚】と言って良いでしょう。
一方の後半部分は、至極単純に「仏教すげー!」って話です。
具体的に言えば「自分のわがままで安珍に執着して挙句殺してしまったイケナイ子な清姫ちゃんすらちゃんと救ってくれる法華経すごーい!」という、法華経の素晴らしさ、有難さを説いている部分になります。ここから、後半部分の持つ性質は【仏教説話】であると言えます。
つまり、清姫伝説って前半部分と後半部分で話のジャンルが違うんですね。
そろそろまとめに入りましょうか。
清姫伝説の物語は前後半二つに分けられ、前半部分は更に四つに分けられます。
そして、前半は恋愛譚、後半は仏教説話の性質を持ちます。
至極簡単にするとこんなところでしょうか。
物語の構成は、特に清姫伝説の変遷を語る上で大きな要点として働いてくれます。たびたび話に登場すると思うので、覚えるなりこの記事に立ち戻るなりしていただけると幸いですね。
さてはて。
今回はここ迄。御読み頂きありがとう御座いました。
ではまた次回も……清姫の話をするとしよう。