清姫の話。【虚言】清姫伝説の〈嘘〉

寝癖きよひー 清姫
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澄姫です。

嘘を吐くと発火するので嘘が吐けない身体になりましたが、実際に嘘を吐いたところで燃えないのでこの文章自体が嘘になってしまう。

嘘吐きのパラドックスって感じがある。嘘吐きのパラドックスと言うのは有名なアレですね。アレ。

『自分は嘘吐きです』という一文。

この言葉が本当ならば『正直に言った』ため嘘吐きと矛盾し、この言葉が嘘ならば『正直者でなければならない』ため矛盾する、ってアレです。頭がこんがらがってくる。気になる人は調べてみてね。

アレとかコレとか。
日本語って便利。

安珍の吐いた嘘

安珍の悪手だったのが、清姫から逃れるために嘘を吐いてしまったこと。

これを清姫が信じ込んだこと。

そして嘘が露見した時によもや清姫が追ってきたこと。

その清姫からも更に逃げたこと。

結果まる焼け。燃えたのがお寺の境内なので直葬ですね。笑い事じゃないね。

安珍の嘘は二つ。

一つ目は清姫の元に戻る気はなかったのに、その場しのぎで「目的を果たしたら戻る」と言いました。最初からトンズラをする気満々だったのか、清姫に告げた時には本当に戻るつもりだったのが途中で心変わりしたかもしれない。けれども、結果的には嘘となってしまいました。

二つ目は清姫が追ってきた時に「人違いです」と言って更に逃げました。ここで観念して清姫を受け入れていれば悲惨な末路を辿るためにはならなかったでしょうけれども、一度逃げてしまった後ろめたさから素直にゴメンナサイは出来なかったんでしょうね。

安珍は元々完全な被害者として描かれていますが、途中から「流石に不誠実では?」と加害者として描かれ始めました。その加害者と言うのも、「嘘を吐いたこと」ではなく「拒絶したこと」に対して不誠実である、との見方があったそうです。

これは禅の考えが入り込んだものらしく、欲望を抑え込むためだけに修行に拘る姿勢のはいかがなものか、と言う問いがあるそうです。確かに、欲望を抑え込もうと意識しすぎてそれ自体が新しい欲望になっているというのは分かる。

今でこそ安珍は清姫に対して嘘を吐いて逃げたから清姫の怒りを買ったのだ、と読まれますが、この読み方自体は結構新しいものになるのです。そこには多分、嘘を吐いてはいけない、と言う昔話が持つ教訓としての役割が入り込んでいるのでしょう。

なんか久し振りにちゃんとした話をしている気がする。

清姫の吐いた嘘

清姫は安珍に裏切られた存在です。

戻ると言ったのに戻らなかった安珍。その時の悲しみと怒りを抱え、何かの間違いと信じ安珍を追えば更に逃げられる。一度ならず二度までも。

そりゃ炎も吐く。

では清姫、全くの清廉潔白な存在だったのか。

前に話したような話していないような、清姫は元々悪い存在として描かれていたので、その辺りは大分現在の認識と異なってしまうのですが、今現在我々が清姫伝説を読んで清姫に触れるとなると、やっぱり嘘の存在は大きい。

安珍の嘘さえなければ、誠実に無理だと言ってくれていればあんな悲劇はおこならなかったやも知れないのですが。

ではここで、道成寺縁起で安珍を探してその辺の人に聞いて回っている時の清姫ちゃんを見てみましょう。

「なふ、先達の御房に申候。我わが男にて候法師、かけご・手箱の候を取てにげて候」

訳文を見てみるとこう言っています。
「そこの先達のお方にお尋ねいたしまする。私が大切にしている懸子かけご手箱を若い坊さんが盗んでいきましたのじゃ」

のじゃ。懸子手箱というのはググれば出てきますが、懸子と言うのが箱の縁に引っかけてはめるようにして作られた箱で、手箱は懸子が付いた小さな箱、という意味でしょう。簡単に言えば宝箱。
説明が面倒難しいので検索してくれた方が早い。

安珍の奴、清姫に嘘を吐くだけではあきたらず窃盗まで! となりますが、安珍が清姫の宝箱を盗んだという話は道成寺縁起以外のどの文献を読んでも出てきません。

つまり、清姫の〈嘘〉なのです。

清姫がなぜこのような嘘を吐いたのかと申しますと、安珍憎し無実の罪でも食らいやがれ、ではなく。
女性が若い男の人を痴情のもつれで追う、というのはいかにも体裁が悪い。なので安珍を追うための口実なのです、というのが説ですね。

まあ確かにその辺の女性が男の人を探していて、浮気されたんです!と言うよりも宝物を盗まれたんです!と言った方が聞こえが良いですし、周りも情報を素直にくれるでしょうからやり方としては納得がいきますね。

清姫は嘘に振り回されて、たまに嘘で振り回して。

嘘も方便、安珍が嘘を利用して逃げ出したのもその場では最も簡単で効果的だったからに相違なく。
けれども、使い方にはご用心。誤ると燃えると書いてある。

今回はここ迄。御読み頂きありがとう御座いました。
ではまた次回も……清姫の話をするとしよう。