澄姫です。
今回は数回振りの清姫伝説作品紹介。
まだまだ清姫伝説は数多くの作品があります。なので、コンスタントに御紹介。
今回は『元亨釈書(げんこうしゃくしょ)』というものについてです。
『元亨釈書』聞いたことあるという人は少ないのではないでしょうか。これまでに紹介した『今昔物語集』『道成寺縁起』はおろか、『法華験記』や『日高川草紙』よりもマイナーだと思います。
げんこうしゃくしょ
聞いたことなしっ!!
同時に、原文が漢文形式で書かれているというのも敬遠の一端でしょうか。
読んだ事のある方は非常に少ないでしょう。
元亨と云ふ時に出来た釈書
概要
そもそも『元亨釈書』とは何かという話から。
釈というのは仏という意味が有ります。お釈迦様、といえば分かり易いでしょうか。
そこから仏・仏教に纏わる書物、ということです。
更に詳しく言うと「仏教通史」と呼ぶものに当たります。こちらも噛み砕いて言えば仏教の歴史を書いた物です。仏教も仏教ならではの歴史がありますからね、そういう話を集めた書物だと思っていただければ。
元亨はこの書物の成立年とされる1322年が元亨2年である事に由来します。ここは単純なネーミングですね。即ち、「元亨の年に出来た仏教の本」ということですね。
他の清姫伝説では『法華験記』が近いかな、と。法華験記は仏教説話、元亨釈書は仏教通史と違いがありますが、仏教を中心に据えた物語ですからね。そのため、清姫さんは基本イケナイこだわ……な清姫さんです。
作者
作者は虎関師錬というお方。中々に博識なお坊さんであったとかなんとか。
では過去の作品紹介ではしていなかった成立秘話でも。時代が新しくなるにつれて出来た当時の事が残るようになるのでいいですね。
道成寺縁起とか日高川草紙は不明点だらけだけど
今は昔、虎関師錬さんは師事した僧の一山一寧さんにこういわれたそうな。
そういえば日本には過去どのような高名なお坊さんが居てどのような事を成したのかね
これに師錬さん。答えに窮してしまいます。
そういえば今まで日本の仏教の歴史を纏めた本がありませんでした。
これはいかん、中国などではあるというのにわが国で無いのは。こうなったら自分で作るぞ
ないなら自分で作ればいいじゃない、とは作家の鑑か何かでしょうか。こうして師錬さんは日本初の仏教通史『元亨釈書』を作るに至ったのでした。めでたしめでたし。
やるねえ
元亨の頃の清姫伝説
では清姫の話をしましょう。
清姫伝説は「巻十四 安珍」となります。大変分かり易くてよろしい。
大筋はそれ以前の『法華験記』『今昔物語集』と大差ありません。清姫のもとに安珍が止まって逃げて追って焼いて供養されて。
宿逃即焼
さてこの『元亨釈書』にて遂にあの人物に名前が!
そう、我らが清姫……ではなく安珍です。表題もまんま「安珍」ですからね。清姫の名前が登場するのはここからさらに400年も後になります。
これは元亨釈書が仏教通史であるということが影響し、無名の僧では語るにやや都合が悪かったからでしょう。所属もはっきりし、鞍馬寺の僧侶とされます。牛若丸の居た所ですね。
一方の清姫さん、名前は出ないわ淫婦と言われるわ結構ぞんざいな扱いを受けます。
安珍の方にスポットライトが当たっていますし、悪ければ悪くなるほど「それも救っちゃう仏教素敵!」になるので仕方がありませんね……。
っぱ仏教っしょ……(?)
一方で、清姫にスポットライトが当たっていないからこそ悪としての性質が弱まっている、と見れるかもしれません。
『元亨釈書』の原文は漢文ですが、1980年に今浜通隆さんで現代語訳されています。
僕は原文も目を通しましたが、訳文はとっつきやすい文章になっているので簡単に内容を理解するには訳文だけで充分かと。
研究したいという人は是非原文も読んでみてください。但し漢文です。漢字だけでも何となくのニュアンスは伝わるかもしれません。
このブログで元亨釈書に関わる話をする際はこの現代語訳を基本用います。必要に応じて原文も扱いますけどね。
今回はここ迄。御読み頂きありがとう御座いました。
ではまた次回も……清姫の話をするとしよう。